「重曹クエン酸水」が健康に善いという説を聞かれたことはあるでしょうか。
ずいぶん以前から重曹やクエン酸は掃除に役立つと言われていました。
重曹は弱アルカリ性なので油汚れや皮脂の汚れなどの酸性の汚れに、クエン酸は弱酸性なので水垢や石鹸カス、トイレのアルカリ性の汚れに有効とされています。
さて、この重曹とクエン酸。どうやら「酸性」と「アルカリ性」が鍵になりそうですが、これらを飲むことで一体どのような効果があるのでしょうか。そして本当に身体に善いものは何なのかを考察してみたいと思います。
１．酸塩基平衡（恒常性）
「人間の身体は弱アルカリ性である」というのは皆さんお聞きになったことがあると思います。健康な身体はpH7.4を中心に±0.05以内（7.35〜7.45）とされます。
pHとは一般に水素イオン指数といわれるもので、簡単に言うと水溶液においては強い酸性pH1〜アルカリ性pH14、中間のpH7が中性です。
pH＝−log10［H+］
（pH１は水素イオンが0.1モル／リットルで強い酸性、pHが1増えるごとに水素イオン濃度が1/10となり、pH７を中性、以降アルカリ性が強くなっていきpH14まであると思って頂ければいいと思います。）
よく、身体が酸性に傾くと不健康になると言われますが、酸性に傾くと疲労や免疫力の低下から様々な病気を引き起こす可能性があります。もちろんアルカリ性に傾きすぎるのもよくありません。
人の血液中でpHに大きな影響を及ぼすのは二酸化炭素（CO2：酸性）と重炭酸イオン（HCO3⁻：アルカリ性）です。二酸化炭素は主に肺でやりとりされ、重炭酸イオンは主に腎臓でやりとりされます。二酸化炭素が増加したり重炭酸イオンが減少したりするとpHは酸性に傾き、反対に二酸化炭素が減少したり重炭酸イオンが増加したりするとpHはアルカリ性に傾きます。
とはいえ、酸性アルカリ性のバランス（酸塩基平衡）は肺と腎臓、そして緩衝系と呼ばれるpHの変化を最小限に抑えるしくみにより厳密に調整されています。これらの機能が正常に働けば、そう単純に「酸性のものを食べたら身体が酸性に、アルカリ性のものを食べたら身体がアルカリ性に」とはなりません。ただし慢性的に食生活が偏ってしまうと、身体の恒常性を維持するために大変な負担がかかりますし、pHも調節しきれなくなってしまいますから、バランスの善い食事が大切なのは言うまでもありません。
一方、尿のpHは4.5〜8.0の間で変動し、健常な人の尿は弱酸性のpH 6.0～6.5前後とされます。尿のpHは食事の内容によって変化するため、例えば、尿をアルカリ化する目的で重曹が利用されることもあります（例：尿管結石予防）。
２．重曹の効能
重曹の効能について検索すると、風邪はもちろん、インフルエンザ・腎臓病・胃潰瘍・痛風・虫歯など様々な不調を治し、さらには癌をも治す「万能薬」だという話も出てきます。ところが「何故善いのか」については十分解明されているとは言えず、今のところ唯一といっていい根拠が「アルカリ性だから」というものです。さて、実際のところはどうなのでしょうか。
重曹は重炭酸曹達（じゅうたんさんソーダ）を略したもので、化学的には炭酸水素ナトリウムNaHCO3です。
重曹は胃酸を中和する即効性を持っており、胃腸薬の成分としても古くから使われています。
NaHCO3 + HCl → NaCl + H2O + CO2↑
重曹はこのように胃酸と反応して塩化ナトリウムと水と二酸化炭素に分解されるわけですから、胃酸の中和と同時に、体内に塩分が補われたり二酸化炭素（炭酸ガス）の働きで便秘が解消されたりすることが期待できます。
さて、この重曹を水に溶かすとどうなるでしょうか。
重曹はナトリウムイオンと重炭酸イオンの状態になり、
NaHCO3 → Na⁺ + HCO3⁻
さらにその一部が水と反応して水酸化物イオン(OH⁻)を生じます。
HCO3⁻ + H2O ⇄ H2CO3 + OH⁻
したがって重曹の水溶液はアルカリ性ということになります。（pH8.2ほどの弱アルカリ性です。）
重曹水うがいが虫歯予防になると言われるのは、歯を溶かす原因となる酸をアルカリで中和するためです。
重曹水を飲むとナトリウムイオンや身体をアルカリ化する重炭酸イオンが補充され、これが体に良いとも言われるようです。
ただし、重曹をやみくもに摂取するのは注意が必要です。個人差はあるものの、ナトリウム過剰による高血圧、ミネラルバランスが崩れることによる不整脈などの危険性もあるからです。
塩分摂取量が気になる場合はご自身で体調の様子をよくご覧になられて適量を探されてください。
重曹は万能薬と言えるのか？ここまで考察してみましたがいかがでしょうか。次回はクエン酸について考察してみたいと思います。
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