レポート

重曹クエン酸水についての考察その2(クエン酸について)

重曹クエン酸水は万能かという問いに対する考察、その1では重曹についての基本的なことを考えました。今回は「クエン酸」について考察します。

1.クエン酸は万能薬ではない

結論から言いますと・・・クエン酸は、残念ながら「万能薬」ではありません。それは重曹も同じで、重曹もまた「万能薬」ではないのです。重曹にせよクエン酸にせよその他の物質にせよ同じことで、「万能薬」などというものは存在しません。それは「クエン酸を飲むことに意味がない」ということではなく、「クエン酸を飲んだらなんでも治る」というのはもはや科学とは言えないということです。

基本的なことの確認ですが、クエン酸の分子式はC6H8O7、カルボキシ基(-COOH)を3つ持つ酸で、弱酸とはいいながら2%程度の水溶液でpH2程度とかなりの酸性を示します。

・クエン酸は体内をアルカリ性にする
・梅干しは酸っぱいが体内でアルカリ性に変わる
・従ってクエン酸を飲めばガンをはじめ様々な病気が治る
・クエン酸で万病が治るなら医者がいらないので医師会がクエン酸の素晴らしさを隠している
・クエン酸が乳酸を分解するので疲労回復によい

これは科学とはいえませんが、全くの嘘でもないので厄介です。
冒頭書いたようにクエン酸は弱酸にしては強い酸で、体内に入ったらクエン酸がアルカリ性になるなんてことはないですし、前回も述べたように体内のpHというのは実に厳密に調整されていて、酸性のものを食べたから酸性に、アルカリ性のものを食べたからアルカリ性に、というほど単純なものではありません。

またクエン酸も乳酸もカルボン酸で、水溶液はいずれも酸性を示します。「クエン酸が乳酸を分解する」という反応はどういう反応なのでしょう。カルボン酸からカルボキシ基を外す「脱炭酸反応」は強い炭素-炭素結合を切る反応なので、そう簡単ではありません。

2.製法、産地、表記なども大混乱

・天然重曹、国産クエン酸でないと意味がない
・天然重曹は化学物質ではないので安心
・純国産クエン酸は〇〇〇社に限る
・通常販売しているクエン酸は添加物なので身体に悪い
こういったある種の煽り文句が商品紹介に踊っています。

クエン酸は柑橘類から抽出しても得られますが、工業的には主にサツマイモなどのデンプンを、クロコウジカビなどを用いて発酵させることで生産しています。
重曹もそうですが、クエン酸もまたある種のブームになってから、「クエン酸」「無水クエン酸」「クエン酸(結晶)」といった製品そのもの区別のような記述、「医療用」「食用」「工業用」というグレードのような記述や「国産」「純国産」「天然」といった原料や生産地に関する記述などが複雑に絡み合って、非常にわかりにくくなっています。

クエン酸は次の図のような構造をしていますがこの状態を「無水物」といいます。

してこのクエン酸分子に、水分子1個が弱く結合して結晶になっている状態が存在します。これを「一水和物」といいます。
化学的にはどちらも「クエン酸」なのですが、水分子が有るのと無いので「クエン酸(無水物)」「クエン酸(一水和物)」と区別します。

話をややこしくするのは、クエン酸は「化学物質」ですが、用途として「医薬品」だったり「食品添加物」だったり、その他工業用とか掃除にも使われるとかで、それぞれ呼称が違うということなのです。

「医薬品」としてのクエン酸を規定しているのは厚生労働省が定めた「日本薬局方」という文書、「食品添加物」としてのクエン酸を規定しているのは同じく厚生労働省が定めた「食品添加物公定書」という文書です。ここでは「クエン酸(無水物)」「クエン酸(一水和物)」が。それぞれ「無水クエン酸」「クエン酸水和物」と「クエン酸(無水)」「クエン酸(結晶)」と表記されているのです。

クエン酸無水物 クエン酸一水和物
化学式 C₆H₈O₇ C₆H₈O₇・H₂O
食品添加物としての名称 クエン酸(無水) クエン酸(結晶)
日本薬局方での名称 無水クエン酸 クエン酸水和物

グレードについても「医療用」「食用」「工業用」などというのはどなたかが便宜上つけただけで、法律に規定があるのは「医薬品」「食品添加物」とその他ということになります。医薬品も食品添加物もクエン酸の純度は99.5%以上と規定され、その他不純物などについてそれぞれ細かい規定があります。

大切な事なのでよく聞いて(読んで?)ください。
純国産クエン酸もまた「食品添加物」なのです。

3.それでクエン酸は身体に善いのか

ここでは科学的に今のところ正しいとされる「疲労回復」について述べておきます。
その根拠とされているのは「機能性表示食品制度」というもので、そこに「クエン酸は継続的な飲用で日常生活や運動後の疲労感を軽減することが報告されています。」との記載があるのです。しかしこれは国の定めるルールに基づき、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を、販売前に消費者庁長官に届け出れば、機能性を表示することができるというもので、国が科学的に保証したものではありません。

ということで普通に考えてこういうことだろうという説明をしておきます。
それは「クエン酸回路」というものです。

私たちの身体の細胞の中にはミトコンドリアという小器官があり、そこでエネルギーを効果的に生み出しているのがクエン酸回路と名付けられた一連の化学反応です。

クエン酸回路の前段階として、食べ物から得たブドウ糖から何段階かの反応を経てピルビン酸というものが生成します。
ピルビン酸からオキサロ酢酸とアセチルCoA (アセチルコエンザイムエー)という酵素が生成し、両者がクエン酸回路に入って最初にクエン酸が生成します。
そこから循環するように反応して最後にオキサロ酸に戻ってくる反応の中でATP(アデノシン三リン酸)というエネルギーを生み出しているという過程です。

このようにクエン酸は体内で生成されていますが、直接クエン酸を摂ることで、このサイクル内のクエン酸の位置にストックされ反応が加速する、従ってエネルギーが補給されるので疲労回復になるというわけです。

さて皆さん、その1その2と重曹、クエン酸をそれじれ考察しましたが個々単体では「万能薬」と言えるものではありませんでした。重曹クエン酸の真実はいかに?次回核心に迫りますのでご期待ください。

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